この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
宵闇
第14章 彼ら
「村上くんがああやって動いてくれたから────」
「は?」
何で俺? と、苦笑いを口元に浮かべたままで。
「俺が先輩に話したのは自分のためだし。
……桜井のためなんかじゃねーよ」
「村上くん……」
「気持ちバラして、おまえが早く振られればいいって思っただけだから。
……なのに先輩もおまえのことが好きだって言うじゃん。は? ってかんじだよな~」
また、視線が逸らされた。
「なんか結局ふたりの後押ししたみたいになるとか、マジで不本意だわ……」
あくまでも自分のためだったと言い張る村上くんだったけど、でももう私にはわかってる。
村上くんがどんな思いで動いてくれて、どうして今、こんなことを私に言うのか。
そう──全部、わかってる。
「……うん」
だから、それだけを返した。
それだけで、きっと伝わると思った。
「……あーあ!」
溜め息をついた彼が、苦々しげに私を見た。
「ざまーみろ、って言ってやんの楽しみにしてたのにこれだよ……ったく」
その大袈裟な表情と口調に思わず笑ってしまうと、村上くんも、ふっ……と素の笑顔で応えてくれた。
「……もうふらふらすんなよな。
おまえがそんなだと気になってしょうがねー」
「え~? ひどい!
私ってそんなだった!?」
もう! と笑いながら答えると、村上くんも、自分で気づかないのは重症だな、といかにも困るといったような口調でさらに返してくる。
ふたりで吹き出すように笑って──しばらく、そうして。