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宵闇
第17章 光と闇と
「……ん」
琴音が、目覚める気配を見せた。
微かな声を漏らしながら、ぴくりと動いた身体。
「琴音?」
そっと彼女の名を呼ぶ。
頬に触れると、その僕の手に琴音は自分の手を重ねるようにゆっくり動かしてきた。
長い睫毛を震わせながら、その目は静かに開かれていく────。
「……葉月……くん……」
その唇が僕の名を囁いた。
頼りなげな、少し掠れた声。
彼女が口にする僕の名前。
誰にそうされるより胸に響く。
「少し気を失ってた……大丈夫?」
重ねられた手を、僕は指を絡めるように繋ぎ直す。
琴音は小さく頷いて、やがて、夢じゃないよね……? と呟いた。
「ん?」
唇に耳を寄せると
「……一緒に暮らすって……葉月くん、言った」
その言い方が可愛くて、思わず頬が緩む。
「うん。夢なんかじゃないよ?」
答えて、それからそっと口づける。
「琴音は今、加奈ちゃんと住んでるから急には無理だけど。
だってふたりで暮らすために借りたところでしょ? 彼女に迷惑かけちゃうからね」
唇を離して諭すように続けると、琴音はゆっくりと瞬きをして頷いた。
「琴音が大学を卒業して、加奈ちゃんとの同居が終わったら。
そしたら今度は僕と暮らそう?」
「……あとは、ずっと一緒?」
僕を見るとろりとした目。
まだ夢の中にいるような、そんな表情をしている。
「そうだよ」
髪を撫でるとくすぐったそうに微かに身動ぎしながらも、僕の視線を受け止めている健気な瞳。
「……その言葉の意味、ちゃんとわかってるよね?」
確認の意味で尋ねると、え……? と少し不思議そうな顔をする。
とろとろとした夢うつつのような瞳のままで。
……たぶん伝わってないな、とその反応から感じた僕は、あらためてはっきりと言葉にした。