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宵闇
第5章 紅
「でも────」
「あ、去年のこと思い出して、ちょっと口から出ちゃっただけかもよ?
だいたい、ほんとに琴音とまだ付き合いたいって思ってるならちゃんとそうアピールしてくるよ!」
「うん……」
頷きながらも、心の中はやっぱりもやもやしていた。
もし、村上くんの気持ちがまだ私にあったなら、私はまた彼を傷つけてしまったんだと、そんなふうに思ってしまう。
「えっと……ごめんね琴音、変なこと言って……!」
複雑な気持ちが顔に出てしまっていたのか、黙ったままの私に心配そうに加奈が視線を合わせてくる。
ううん、と首を振りながら、笑ってみせようとしたものの……うまく顔が作れない。
加奈が不意に、机の上に投げ出されている私の手をとった。
「……えっと、村上がさ? 琴音に今までどおりに接してくるんだったら、琴音もそうするといいよ」
諭すような口調と、あったかい手。
うん、と頷くと、加奈も、うん、と答えるように頷き返してくる。
「ごめんね、私、よけいなこと言った。
琴音のこと悩ませちゃった」
首を振り
「……教えてくれてありがとね、加奈」
そう、お礼を言った。
知らなかったらきっと私はもっと村上くんを傷つけてしまったかもしれない。
「私はいつも琴音の味方だから。
でも、村上も友達だからさ、言われたときなんかかわいそうになっちゃって……つい琴音に話しちゃった。ごめんね」
ぺろ、と加奈がいたずらっ子みたいに舌を出す。
指摘してくれるときも、私が必要以上に気に病まないようにしてくれる、私の大切な親友。
ありがとう──と、もう一度口にした。