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宵闇
第5章 紅
「あーあ。琴音、とうとう彼氏作っちゃったんだね」
先輩と付き合い始めたとき、加奈にそう言われた。
「4月からいったい何人に告られたんだか──全部断りまくってたのにその先輩のはOKした決め手っていったい何なの?」
教室で頬杖をつきながら聞いてくる親友は、そんなふうに痛いところをついてくる。
「えーと……」
だってそれは正直、本当に自分でもわからなかったから。
でも、あの雨の日から先輩が気になる存在になっていたことは確かで、先輩の話す声が聞こえるたびに、意識をそっちに持っていかれてしまって────。
「ま、いいんだけどね! 琴音が幸せならさ!」
優しい親友は、答えあぐねている私を見かねたのか、そう言って話を終わりにしてくれた。
けれど少し間を置いて
「……ただね、村上がさあ」
ほっとしていた私に、言いにくそうに切り出した。
村上くん──彼は私が先輩とつきあい始めたのを知ると、ちょっと驚いていたけれど、その後も友達として変わらず私に接してくれていた。
彼が、何──?
目で続きを促すと
「うん……あのさ、ちょっと言ってたわけよ。
『あの先輩ならよくて俺はだめってことだよな。何が違ったんだろ』みたいなことをね」
「え……」
「もちろん琴音の前ではそんな態度してないと思うけど」
まさかの内容に、そんな……と、思わずこぼしていた。
……私は、何もわかっていなかった。
もう私は村上くんにとってただの友達の位置にいるんたろう、と勝手に思い込んでいた。
動揺している私に
「まあ、こればっかりはしょうがないよ!
琴音、一回ちゃんと振ってんだし。友達でいいって言ったの向こうなんだし……!」
加奈が慌てたようにフォローしてくる。