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宵闇
第6章 揺れる
「……ごめんなさい」
先輩の姿が視界から消えたとき、私は村上くんの方に身体を向けて、そう、先輩の言葉を謝った。
視線は合わせられなかったけれど。
「や、俺は全然平気だけど……桜井こそ大丈夫なの?」
ん、と彼の言葉に頷く。
「そっか。ならいーよ」
じゃ、と村上くんが教室に戻っていく気配。
心を落ち着かせようと深く吐いた息。
途端に、まわりが気になった。
あちこちから視線を感じ、ひそひそとしたものも聞こえる気がする。
とても顔をあげられなかった。
「琴音! 大丈夫!?」
加奈の声と、掴まれた手首。
一瞬どきりとしたものの、反射的に顔をあげた私の視界に入ってきた、親友の心配そうな顔。
「あ、うん……」
ほっとした私は、笑顔を作りながら答える。
「もう! 村上、割って入るし……どうなるかと思ってハラハラしたよ~」
わざと明るく言ってくれてるのがわかり、その優しさに救われる気分だった。
「……心配してくれてありがと」
心から感謝した。
大切な親友に。
「当たり前じゃん!」
もう、と怒っているような表情を私に向けながらも、その口元はやっぱり笑っている。
「あ~。なんか明日にはいろいろ噂になってそうだよね」
苦笑いで口にすると、たとえそうなってもそんなのすぐ消える! とすぐにフォローしてくれた。
平気平気! と励ましてもくれる。
加奈がくれる優しい言葉の数々に思わずこみあげてくるものがあり、ありがとう、と何回目になるのかもうわからない言葉を、また、私は口にした。