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宵闇
第9章 溶ける


「あんまり酔ってないみたいだね」


コーヒーの入ったマグカップを私に差し出しながら、葉月くんが言った。


「あ、ありがと」


カップを受け取って


「お酒はそんなに飲んでないよ? 話の方が盛り上がっちゃって」

「そうなの?」

「うん。友達はここぞとばかりに彼氏の文句とか言いまくったりね。聞いてるとおかしいの!」


なんだかんだで可愛い愚痴だったな、と思い出して笑ってしまう口元。


「琴音ちゃんは言わなかったの?」

「私は彼氏いないって言ったじゃん。だから聞き専門だよ」

「……なんだ。まだいないんだ」

「そうだよー」

「そっか。
……前に聞いた子と別れてから、ほんとに誰ともつきあってないの?」

「うん」

「でも終わってからもうかなり経つんだよね?」

「だね~。もう3年以上……3年半はたつかな?」


口にして、もうそんなに経ったんだとあらためてその長さを思った。
でも何年経っても、彼氏なんて作る気にはなれないだろうな──そう思ったときだった。


「琴音ちゃん可愛いし、その気になったらすぐ彼氏できそうだけど。
……まだ引きずってるってことかな」


まるで私の心の中を読んだかのような言葉に、思わず葉月くんを見る。


「……あ、ごめんね。言いたくなかったらスルーして?」


答えに詰まった私をそうフォローするかのように、優しく笑う。


……ああもう。葉月くんってほんと優しいな。


心が癒されていくのを感じた。


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