この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
宵闇
第9章 溶ける

「あんまり酔ってないみたいだね」
コーヒーの入ったマグカップを私に差し出しながら、葉月くんが言った。
「あ、ありがと」
カップを受け取って
「お酒はそんなに飲んでないよ? 話の方が盛り上がっちゃって」
「そうなの?」
「うん。友達はここぞとばかりに彼氏の文句とか言いまくったりね。聞いてるとおかしいの!」
なんだかんだで可愛い愚痴だったな、と思い出して笑ってしまう口元。
「琴音ちゃんは言わなかったの?」
「私は彼氏いないって言ったじゃん。だから聞き専門だよ」
「……なんだ。まだいないんだ」
「そうだよー」
「そっか。
……前に聞いた子と別れてから、ほんとに誰ともつきあってないの?」
「うん」
「でも終わってからもうかなり経つんだよね?」
「だね~。もう3年以上……3年半はたつかな?」
口にして、もうそんなに経ったんだとあらためてその長さを思った。
でも何年経っても、彼氏なんて作る気にはなれないだろうな──そう思ったときだった。
「琴音ちゃん可愛いし、その気になったらすぐ彼氏できそうだけど。
……まだ引きずってるってことかな」
まるで私の心の中を読んだかのような言葉に、思わず葉月くんを見る。
「……あ、ごめんね。言いたくなかったらスルーして?」
答えに詰まった私をそうフォローするかのように、優しく笑う。
……ああもう。葉月くんってほんと優しいな。
心が癒されていくのを感じた。

