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黒椿人形館
第1章 黒椿館
(4)
「しのちゃん!?」
真菜は起き上がろうとしてすぐに転んだ。手足を手錠で固定されていることを忘れていた。
しのめは鉄格子の向こう側で、真菜の方を向いて黙って立っている。
転んだ勢いで上半身が入口の方へ向く形になった真菜の目に、しのめの背後にもう一人誰かが立っているのが映った。
真紅のバスローブをまとった背の高い細身の男だ。
整った鼻筋と、精悍な顔のライン。整髪料で固められていない自然に流した黒髪。男性にしては色白で滑らかな素肌。細い筆でさっと引いたような端正な眉毛。そして鋭い線のような切れ長の目――しかしその中の瞳はなぜか、見る者を安心させるような優しげな光をたたえていた。
年齢は、十代のようにも、二十代のようにも、三十代のようにも――果ては四十代のようにも見える。
年齢の想像がつかない顔なのだ。
十分な貫禄を放ちながらも幼さがあるようにも見える。
無邪気そうでありながら、何があっても動じないようなオーラにも包まれている。
そして、単純に、美しい。
妖気さえまとっている感じさえする。
しかし――
いくら美しい見た目であっても、この男がしのめを捕らえ、あんな悪趣味な蝋人形を作り、あろうことかその中に緊縛した本物のしのめをまぎれさせた張本人であり、そしてこの館の主であることは間違いない。
ただその時、真菜の脳裏をついさっきの出来事がよぎった。
なぜ手と足ほぼ同時に手錠をはめられたのか?
――二人がかりで手錠をかけたから。
一人はバスローブの男。もう一人は……。
――しのちゃん……?
一体どういうことか。
しかし、真菜はそれでも叫ばずにいられなかった。
「しのちゃんを返して!! あたしたちをここから出して!!」
男は何も答えない。ほほ笑みを浮かべるばかりである。
男は、しのめの肩から真菜のハーフダッフルコートを脱がせ、放り投げた。さっきまで緊縛されていた縄の痕が薄く残るしのめの裸体がさらされる。
縄の痕が残っていようとも――
やはりしのめの裸体は真っ白く美しかった。
――こんな状況なのに……
――どうして……
――見とれてしまうの……?