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黒椿人形館
第2章 芳香
2.芳香
(1)
入口の鉄格子は閉められたが、木製の扉は開け放ったまま、真紅のバスローブの男はしのめを連れ去っていった。
真菜は、夢の中に浮かんでいるような心持ちで、しばらく呆然としていた。
やがて、両手両足を拘束されたままの体をよじりながら、部屋の中を見回した。
唯一ある窓は、ガラスではなく鉄板がはめられていて、ここも内側に鉄格子が付けられ、開かないよう壁に完全に固定されている。部屋の奥にもう一つ扉があるが、半開きになっているその中は窓もないトイレ付きバスルームだ。
家具のたぐいは一切なく、あるのはバスルームの対面の壁にくっつけて置かれているアンティークのベッドのみだった。しかもシーツも掛け布団も、枕さえもない。
真菜は、完全に囚われの身になったことをあらためて自覚した。
しかし、真菜の脳内からはすぐにそんなことは外へと追い出され、代わりにさっきまで見ていた光景で全てを埋め尽くされた。
しのめの痴態――。
明らかにしのめは、あの男に蹂躙されて――
悦んでいた。
美しく白い均整の取れた身体を、むせるほど匂い立つように艶めかしく動かし、翻弄されていた。
『ご主人様』という言葉さえも吐いた。
そもそもあの男は、何物なのだろう?
しのめは、囚われの身ではなく自ら進んでここに留まっているのではないだろうか?
真菜の頭の中は混乱した。
あの隙のない、いつも品性を保っている『しのめ』とは真逆の、まるで別人になったような淫靡で卑猥な『しのめ』――。
しかし――
――あたし……どきどきしてる……
あんなしのめは見たくない。
――本当に?
真菜の脈の鼓動は、速まっていく一方だった。
息が荒くなっていくのが分かる。
いくら目をつむっても、現れるのはしのめの痴態ばかりだ。
――どうしちゃったの、あたし……?
いつしか真菜の体は勝手に動き、拘束されたまま絨毯の上を這って、入口の鉄格子の方へ向かっていた。