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黒椿人形館
第3章 所有者

3.所有者


(1)

 真菜は、朦朧としていた意識が徐々にはっきりしていくのを感じていた。
 頭が、重い。
 倒れたままなのだろうか、うっすら開けた目に入ってきたのは真紅の絨毯の細かい毛の一本一本だった。右の頬を絨毯に付けた状態のようだ。
 ここは、やたら明るい。
 それに、寒くない。
 むしろ、暖かい。
 暖房が入っているのだろうか。
 その割には、下半身にだけすうすうと空気が通り抜けていく。
 どうも、後ろ手に縛られて、四つん這いにさせられているらしい。
 身体を動かそうとするが、バランスを崩し倒れそうになったとき、男の声がした。
 「ダメダメダメ、動いて僕の楽しみを邪魔してはいけないよ」
 声は上の方からする。
 真菜は、急に頭が軽くなったかと思うと、首を何かで上に引っ張られるのを感じた。首輪のようだ。引っ張られて少し浮いた頭を、ふわふわの毛並みに包まれた何かに押され、反対側を向かせられた。そしてまた頭が重くなり、さっきとは逆の左の頬を絨毯に押し付けられた。
 顔の向きを変えさせられて目に入ってきたものに、真菜は思わず声を上げた。
 「いやっ……!」
 絨毯の上に置かれた一畳ほどもある大きな鏡に、自分の今の真横から見た身体が全て映っていたからだ。
 真菜の顔は、恥ずかしさのあまり、真っ赤になった。
 いつの間にかメイド服を着せられ、頭と胸を床に着けた四つん這いの体勢で縄で胴体ごと後ろ手に縛られ、短いスカートをまくられたまま下着も何も着けさせられず、高く突き出した尻はむき出しになっていた。そして脚にはニーソックスを履かされている。ただ、脚は全く縛られていなかった。
 鏡の位置が横なので尻の横側しか見えないが、脚は大きく開かされ、真後ろからは当然ながら陰唇も丸見えだろう。陰唇は少し開いて中のクリトリスや花弁も見えているかもしれない。
 首には紅い首輪が着けられ、そこから伸びる鎖のリードを握っているのは――しのめを鞭打っていたあの男だった。男は真紅のバスローブ姿のままアンティークの大きなソファに、毛並み豊かな真紅のスリッパを履いた足を組んで深く腰掛け、下側の足――本来なら絨毯の上に直接置くはずの足裏で、真菜の頭を踏みつけていた。
 どうりで、頭が重いはずだ。
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