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黒椿人形館
第3章 所有者

(2)

 ――そういえば。
 しのめはどこにいるのか?
 しかし――
 しのめを助けるために来たはずが、そのしのめが真菜を囚われの身にすることに手を貸していた。
 そして今、この男にこの上ない恥辱を与えられている。
 男は真菜の頭から足を外すと、そばにしゃがんで真菜の尻を指先でなぞり始めた。
 真菜の全身を、ゾゾゾ……と無数の繊毛を持った細長い生き物に這われるような、気味の悪い感触が駆け抜けていく。
 その中で、真菜は精一杯耐え、何とか声を出した。
 「……お願い……あたしを帰してください……」
 「返す? 向きを変えるのはだめだ」
 ――え……?
 「仰向けよりもこれが人形の尻と脚を鑑賞するには一番いい。尻は突き出して脚を開き気味にする」
 話が噛み合っていない。
 それに『人形』とは、どういうつもりで言ってるのか。
 男の指が太ももからニーソックスに包まれたひざ裏、そしてふくらはぎへと動いていく。
 「……あ、あたしを……どうする……つもりですか……?」再び何とか真菜は声を出す。
 「君の脚は縛らない。鑑賞する時にはね。縄が脚の曲線をぶち壊しにする」
 やはり話が噛み合わない。
 わざとなのだろうか? 真剣なのだろうか?
 「勝手に家に入ったことは謝ります……だから許して……」
 「許せるのはソックスくらいで、これは人形の脚の曲線を壊さず、むしろ魅力を引き出す」
 「お願い……何でもしますから……」
 「何でもむき出しにすることは決して良いことじゃない。かといって完全に隠しては話にならない。絶妙なバランスで露出することが大事なんだ。その点においてニーソックスはなかなか良い発明品だよ」
 真菜は不気味さを感じてきた。
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