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黒椿人形館
第3章 所有者
 それでもやはり――しのめのことだけは聞かずにいられない。
 「……しのちゃん……しのちゃんは、どこですか……?」
 「床に押し付けられて、見えもせず触ることもできないままでいい」
 「え……?」
 「僕にとっては乳房は見えなくていいんだ。何の興味もない。ただ胸板がふくらんでいるだけの話じゃないか。確かに男にはない曲線だが、興味がないものはない」
 どうやらこの男とまともに会話することは無理らしい。
 突然、真菜の目の前に男の顔が現れた。
 初めて、男の顔を間近で見た。
 間近で見る彼の肌は、男のそれとは思えないほど滑らかだった。
 鼻筋も、唇も、まつ毛も、眉毛も、頭髪も、瞳も……全てにおいて中性的で美しい。
 男なのに嫉妬をおぼえるほどだ。
 にもかかわらず――そこからは全く揺るぎない強烈な『オス』の薫りを発している。
 男は右手の親指、人差し指、中指の三本の指で、そっと真菜の頬を上から下へとなぞり、唇を軽くつまんだ。
 機械で切ったかのように形が揃いすぎている短い爪を備えたその指は、長く繊細で滑らかでありながら、やはり女のそれとは違う男の曲線を描いていて、一本一本に力ある精気の宿りを感じさせた。
 「ふむ……頬も唇もややふくらみ気味、どっちも話にならない曲線だ」
 男は、真菜が顔でコンプレックスを抱いている部分を一刀両断にした。
 「尻や脚と同じくしのめの美しさには遠く及ばない」
 真菜は突然しのめの名が出てきて意表をつかれたが、さっきからずっと与え続けられている羞恥と混乱の中で、追い打ちをかけるように屈辱感を浴びせられ、真菜の胸はかきむしられた。
 しのめの完璧なスタイルと比べられては、劣るのは当然だ。
 「例えば脚のつけ根のこの部分……この曲線などはかなりしのめと違う。同じ人形かと思うほど、曲線に問題がある。欠陥品と言ってもいい」そう言いながら男は真菜の下尻に指先を這わせていった。
 ――そこまで……言わなくても……
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