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黒椿人形館
第3章 所有者
 一般的に見て決して体のラインは悪くないと真菜は自覚している。しのめ以外の友人たちからもそう言われる。
 でも――。
 ――しのちゃんと一緒にいると、周りはみんなそんな目で見てるのかも……
 ――『あのすっごくスタイルいい娘の隣に居る娘、なにあれ?』みたいな……
 「一番違うのはこの太ももの曲線と長さだ」男はそう言うと、真菜の左足の太ももを真横から、全ての指を真っ直ぐ伸ばした両手で挟んだ。そしてそのフォルムを確かめるように、陶芸家が粘土の形を整えていくかのごとく、上から下まで滑らせていった。
 「ここの微妙な曲線がしのめの場合芸術的なんだ。ところがこの曲線はなんだ?」
 ――どうして……
 「出来損ないだ、な」
 ――どうしてそんなにしのちゃんと比べられなきゃいけないの……!
 羞恥心と屈辱感の中に、嫉妬心が入り込んできてないまぜになってきた。
 ――あたしは……!
 ――見世物でも……!
 ――人形でもないのっ……!!
 真菜は脚から男の手を振り払うように、ひざだけで動いて男から素早く離れ、正座するように脚をたたんで床に丸まった。
 が――。
 一瞬の出来事だった。
 真菜は、なぜか大鏡からかなり離れて――
 横向きに転がっていた。
 「……がっ……か……は……っ……」
 息ができない。
 苦しい。
 何が起こったのか?
 空気を一生懸命吸おうとしても、吸えない。
 肺に入ってこない。
 ――死んじゃう……!
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