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黒椿人形館
第1章 黒椿館
※ ※ ※
大学は春休み中だった。ある日しのめの携帯が突然繋がらなくなり、真菜がワンルームマンションを訪ねても常に不在のまま、彼女の実家に確認しても帰省していなかった。逆にしのめの母親から居場所を聞かれたくらいだ。
そんな折、書類の提出で大学に行った帰り、真菜は偶然しのめの姿を見つけた。
真菜はあわてて彼女に駆け寄って言葉を交わそうとした。
――しのちゃん……! 一ヶ月もどこ行ってたの!
しかしそれはかなわなかった。しのめがすぐにタクシーに乗ってしまったのだ。
真菜も急いで別のタクシーをつかまえ、追いかけた。
タクシーは高台の方向へ進んでゆき、豪邸が並ぶ山の手の高級住宅街を駆け抜け、あっという間に山中に入ったところまで来てしまった。
左右に森しかない道の途中でしのめがタクシーを降りると、真菜も少し距離を置いた場所で降りて彼女の後を追った。
しのめは何もなさそうな左の森へと入っていった。真菜には気付いていないようだ。
しのめが入っていった場所まで来ると、森の中を通る細い一本道と、その奥に一軒の大きな洋館が見えた。
しかしすでにしのめの姿は見えない。
――あそこは『黒椿館』のある場所だね。
降りぎわにタクシーの運転手が教えてくれた。
住宅街からかなり離れており、昼間でさえひと気がない場所だ。『黒椿館』の持ち主は一応存在するらしいがはっきりせず、地元の住民も気味悪がって近づこうとしないらしい。館の歴史は古く、大正時代から建っていたそうだ。
しのめの姿が見当たらなくても、行き先はその『黒椿館』と呼ばれる建物しかない。
黒椿館に近づくにつれ、周囲は紅く花が咲き誇る椿の木が生い茂っている。館の名前通りの黒い椿が咲いているわけではないようだ。そもそも黒い色した椿など聞いたことがない。しかし、館は壁も屋根も全体に黒っぽく、紅い椿たちの中で異彩を放ちながら堂々と建っている。
真菜は怖くなってきて一旦は引き返そうかとも思った。足も少し震えている。しかし、しのめを見つけた以上引き返したくなかった。
そして、真菜は黒椿館に入った。