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黒椿人形館
第1章 黒椿館

    ※  ※  ※

 真菜は一番左の扉までたどり着くと、重厚な木製扉のドアノブに手を掛けてゆっくり開いた。
 木のきしむ音が周囲に響く。
 そこはアンティークの分厚い丸テーブルと一人掛けソファが二つ置いてあるだけの小さな部屋だった。窓は木の板で打ち付けられて塞がれている。
 窓が塞いである時点で、すでに怪しい。
 他に扉はなく、人が隠れられそうな調度品もない。
 真菜は扉を閉め引き返し、次の真ん中の扉へとゆっくり歩き出した。
 洋館の中は寒かった。
 だが、そんな三月になったばかりの冬の寒さの中であるにもかかわらず、真菜は全身に汗をかき始めていた。
 真菜は汗ばむ手のひらで、真ん中の扉のドアノブをつかんだ。
 この扉だけは、片開きの扉ではなく二枚の扉からなる両開きだった。
 真菜は片方の木製扉をゆっくり開けた。
 重い。
 顔が入る程度まで開くと、真菜は中を覗いた。
 そこには――
 そこには、確かに――
 しのめは、居た。
 居たが――
 真菜が全く想像だにしなかった『状態』で立っていた。
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