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黒椿人形館
第4章 壁
※ ※ ※
ある日、真菜はベッドの上で放心していた。
突然、ベッド近くの壁にある燭台が壁から外れて落ちた。
真菜は、慌ててベッドの支柱にたまたま掛けていたバスタオルをつかみ、落ちた燭台に駆け寄って、絨毯に転がった火の点いたままの蝋燭を何度もバスタオルで叩いて消した。
造りが古いためか、あるいは取り付けが悪かったのか――これが熟睡している時に起こったら火事で死んだかも知れないと思うと、真菜はぞっとした。
真菜はしゃがんで燭台を拾おうとした時、ベッドの下の隙間を覗いてあるものに気付いた。
ベッドの下の一番奥――。
床に面している辺りの壁の一部が、木の板で覆われている。
真菜は中腰でベッドの脚の一つを両手でつかむと、力の限り引っ張った。
さすがにアンティークの木製ベッドは相当な重さだったが、絨毯の上に乗っているので女手ひとつでも、引きずれば動かせないことはない。
ベッドは斜めに移動され、修繕された壁があらわになった。
真菜はさっき落ちてきた燭台を手に壁に駆け寄り、あてがわれた木の板を正面から叩き始めた。薄い側面からも何度も叩いた。やがて固定している釘の一つが外れ、板と壁の間に隙間が出来た。
真菜はすき間に指を入れ、力一杯引っ張っると、板はあっさりはがれ飛んだ。
案の定、そこの壁だけ縦横十数センチほどの穴が開いている。
覗き込むと、向こうの部屋も同じように修繕してあるのだろう、木の板らしきものが見えている。
真菜は絨毯の上に仰向けに寝転び、右足を穴の中に差し入れた。つま先が木の板に当たる。
つま先を少し引いて、足の指を折りたたむように曲げると、思い切り木の板を押すように蹴った。
板が外れ、向こう側に転がっていった。
真菜は足を抜くと、うつ伏せになり穴に顔を近づけ向こう側を見た。
薄暗いが、こっちと同様、おそらく蝋燭の灯りがあるようだ。絨毯も同じく真紅である。
静かだ。
誰もいないのだろうか。
この部屋は、しのめが閉じ込められている部屋ではないのだろうか?
真菜はしばらく覗き続けていた。
だが、ただ静寂が流れるばかりだ。
真菜はため息をついた。そして起き上がろうとした時――。
穴の向こう側から覗き込んできた顔があった。
しのめだった。