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黒椿人形館
第5章 人形
5.人形
(1)
あの日以来、真菜はしのめが責めを受けている声を聞くことさえなくなり、気が付けば一週間ほどが過ぎようとしていた。
真菜の胸はぽっかり穴が空いたようになっていた。
『なぐさめて欲しいの?』――。
『マナは誰かに頼りたいだけ』――。
『逃げるなら一人で行って』――。
しのめに言われた言葉が、真菜の頭の中を四六時中ぐるぐると回り続けた。
壁の穴の向こう側の板は、やはり重いもので塞がれているらしく、びくともしない。
しのめはどこへ行ったのだろうか?
あの男は、しのめをどこに連れ去ったのだろうか?
まさか殺してしまうなんてことはないと思うが、館にいるかどうかも分からない。
よしんば、しのめとまた会えたとしても――
真菜は何を話せばいいのか分からなかった。
それだけではなかった。
男から責めを受けることも一切なくなったのだ。
別にあの男から責めを受けたい訳ではない。
ただ、この何もない薄暗い部屋で、一切他人との接触もなく、逃げられる望みもなく、出来ることは何もなく、何日もひたすら孤独に過ごすということは、着実に真菜の神経を削り疲弊させていった。