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黒椿人形館
第1章 黒椿館
(2)
部屋の中は、広い。十数畳はあるだろうか。赤レンガの壁には等間隔で燭台に蝋燭が灯されている。
しかし真菜の眼中には、部屋の明るさや絨毯の色など全く入り込んで来なかった。
真菜の目に飛び込んで来たのは――
何人もの全裸のしのめだった。
あのしのめが、全裸のままで、大勢立っているのだ。
真菜は部屋の中に足を踏み入れた。絨毯は真紅の厚手のもので、さっきの広間と同様、歩くとふわふわする。
背後で扉がゆっくり閉まる。
真菜は大勢のしのめの方へそろりと歩き出した。
二十人くらいはいる。
前を見てもしのめ。
右を見ても左を見てもしのめ。奥にもしのめ。
しのめ、しのめ、しのめ、しのめ、しのめ、しのめ……
全裸のしのめは皆、後ろ手に縛られ、胴体は亀甲縛りで乳房を強調しつつ股間にきつく食い込むように縄が施され、口も縄で猿轡されている。全てのしのめは蝋燭の紅い光にゆらゆら照らされ、腰をなまめかしくよじっているしのめもいれば、目をつむり眉を寄せ切なげにあごを上げているしのめもいる。一つとして同じしのめはいない。
真菜は呆然と立っていたが、やがてこれらの『しのめ』はしのめでないことに気付いた。
真菜は一人の『しのめ』の肩に触れてみた。温かみが、ない。
蝋人形だ。
よく見ると、どの『しのめ』も、微動だにしない。
しかし、それを確かめたにもかかわらずあまりに精巧すぎて、やはり本当は全部しのめじゃないのかという気になってしまう。見ていて恥ずかしささえ込み上げてくる。肉体は蝋だが、縄は本物なのが余計に生々しい。それに照らしている蝋燭の灯りがかすかに揺れるせいで、皆動いているような錯覚にも陥る。
それにしても――
これは一体何なんだろうか。
誰がこんなことをやったのか。
あまりに――
悪趣味だ。
――悪趣味だけど……
――きれい……。
真菜はしのめの全裸を見たことがなかった。温泉旅行などに行く機会はなかったし、お互いの部屋に泊まることはあっても裸体を見せ合うことなどない。
本物のしのめの裸体も、これくらい綺麗に違いない――いや、これらは人形だからそれ以上だろう。