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黒椿人形館
第5章 人形
 仰向けになれば乳房や腹に、うつ伏せになれば尻や背中に、どんな体勢を取っても、熱蝋は容赦なく素肌に振りかかり、そのたびに真菜は絨毯の上をのたうち回った。
 曲げることも隠すこともできない全身を、至る所から至る角度で熱の槍が真菜の身体を次々と貫いて神経を引き裂いていく。そして鏡に映る自分の姿が蝋でどんどん真っ赤に染まる。まるで蝋の薄皮を着せられているように――。
 苦痛だった。
 確かに苦痛ではあった。
 身体はそれから逃れようと勝手に反応し、動く。
 しかし――真菜はこのままでもいいと思った。
 どれくらい、この苦痛の時間が続いただろう。
 真菜の全身が、もう垂らす場所がないほど蝋で埋め尽くされたころには、真菜の意識は朦朧としていた。
 気がつけば、今度は別の痛みが真菜の身体を襲い始めていた。
 男が、蝋の薄皮をはがすかのように、真菜の全身をめったやたらにバラ鞭で打ちまくっているのだ。
 頭は朦朧としていく一方だが、痛みは分かる。
 ――あ。
 ――いたい。
 ――うん、いたい。
 ――いたいだけ。
 ――そう。
 身体は無意識に痛みから逃れようと床の上をズルリ、ズルリと這い回る。
 バラ鞭で真菜の身体から固まった蝋のほとんどがはがれ落ちると、再び真菜は熱蝋のシャワーを浴びた。そしてまた鞭責め――熱蝋責め――幾度となくそれが繰り返された。
 どれだけの時間、責められていたか分からない。
 ただ、真菜の心は完全に意思を失い、『人形』のように翻弄され続けた。
 いつの間にか、股間にきつく食い込まされている縄を、もらした小便で濡らしていることさえ自覚していなかった。
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