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黒椿人形館
第6章 乱舞
 しのめが木製扉を開くと、真菜の部屋同様、鉄格子の扉が現れた。
 鉄格子の隙間からは、夜の闇の中に満月の明かりに照らされ妖しく浮かぶ、花が咲き乱れた椿の木が見える。
 初めて、しのめを追って真菜がやってきたこの洋館の玄関前だ。この出入口は正面玄関とは別の勝手口のようなものらしい。
 しのめが別の鍵を挿し入れると、鉄格子の扉は重くきしむ音を立てて開いた。
 しのめは鍵の束を挿したまま外へ飛び出した。もはや抜く必要のないものを抜いている時間的余裕もないということか。
 真菜も、しのめを追って出て行こうとした。
 が――
 真菜の足が、止まった。
 この夜のとばりの向こうには、ここの一歩外には、館に来る前に過ごしていた普通の日常が待っている。
 しのめと一緒に過ごした、普通の女子大生としての日々が待っている。
 好きなときに、好きなことができる自由が、待っている。
 『人形』ではなく『人』としての――。
 しのめの裸体が――向こうへ駆けていく。
 「待って!」
 真菜の声にしのめは足を止めてこっちを見た。
 「時間ないんだよマナ!?」
 「あたしは! しのちゃんの人生からは逃がしてあげられない! それでもいいんだよね!?」
 しのめは小さくうなずいて再び走り出す。
 真菜は、鉄格子の扉から一歩外へと足を踏み出した。
 ……チャリッ。
 その時、首輪の錠が――揺れてかすかな金属音を立てた。
 真菜の足が止まった。
 しのめはもう、ずっと前方だ。
 真菜はその姿を追おうとさらに一歩足を踏み出そうとする。
 ……チャリッ。
 また、金属音。


 真菜は、自分の首にある『黒椿の首輪』にそっと触れた――。


 そして真菜は。
 一歩内側に引き返して――
 鉄格子を閉め――
 中から、鍵を、掛けた。
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