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黒椿人形館
第6章 乱舞
(3)
しのめが立ち止まり、真菜の方を向く。
しのめは、ゆっくり歩いて引き返してくる。
そして、止まった。
夜のとばりの中で、咲き乱れる紅い無数の椿を背に、美しい線を描いているしのめの裸体が立ち尽くしているのを、月明かりが照らしている。
明瞭には見えないが、しのめは呆然としているように見える。
真菜は、自分の首輪をつかみながら、鉄格子の間からじっとその様子を見ている。
強い風が吹いてきた。
風は木々を大きく揺らし、枝や葉をこすり合わせ海の大波のようなざわめきを起こし、乱れ咲く紅い椿の中に立つしのめの、長い黒髪を激しくあおってなびかせる。
しのめの髪は、風にあおられているうちに触手のようにどんどん伸びて、闇さえも覆わんばかりに広がっていくように見える。
外から入り込んでくる風で、真菜の髪も同じく強烈な勢いで舞い踊る。首輪の錠も、同じようにあおられて連続して金属音を立てる。
「しのめ!!」
突然、大きな声があたり一面に響いた。
鉄格子を挟んで、真菜の前に主が現れた。
――ご主人……様……
主はいつものほほ笑みをたたえながら、鉄格子の間から手を入れて真菜が持っている鍵の束を取り上げ、鍵を開けて鉄格子を開いた。そして真菜の手を引いて彼女を外へと引っ張り出した。
主は真菜を歩かせ、共にしのめの前までやってきた。
しのめは――今度はどんなひどい目に遭わされるのか。
――しのちゃん……
――ごめんね……
主は、花がいくつか咲いている、手頃な太さの椿の枝を折って握った。
「しのめ、良かったな! マナは僕を選んだよ」
しのめは――ほほ笑んだ。
――えっ……?