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一夜の愛、人との愛
第10章 透明な選択
謁見の間―――天井の高い、まるで協会のような広く神聖な空間に、真理亜とコーラル、クレイルとザレムは訪れていた。


建物の1階にある泉の裏手から、細く続く通路を抜けて、彼らは神格長と呼ばれるエデンの最高権力者に謁見を申し出ている。


溜息一つさえ響き渡る空間は、真っ白い石造りの聖域で、頭上から光が差し込むことは無い。
その代わりに、扉を開けて正面の壁を見上げると、大きな丸いステンドグラスが嵌った窓があり、外の光が優しくスポットライトのように床の1点を照らしていた。


彼らが中に入ると、ぽ、と奥の方に灯りが灯った。空間奥に置かれた、白亜の祭壇めいた台に透明のランタンが置いてある。中に青白い光が蠢き、それを皮切りに謁見の間の左右の壁が、奥から手前に向かって、順々に青白く光り始めた。さながら鍾乳洞のような幻想的な雰囲気の中、彼らは、前方の祭壇の前で足を止めていた。


クレイルが空中で指を動かすと、ザレムが床に引っ張られるようにガクリと足をつく。
衝撃で、黒い羽が1枚、白い床にはらりと散った。
舌打ちして背後の天使を睨みつけるも、彼は胡座を組むと頭を垂れる。
憤りを飲み込むように唇を結び、胡座の太腿の上に両手の拳を置くと、彼は目を閉じた。


クレイルがザレムの背中を冷たく見下ろすのを横目で見て、真理亜が自分の横にいるコーラルに声を潜めて囁く。


「ザレムは、何をしたの?」


その言葉に、天使は綺麗な眉を一瞬歪めた。
薄い唇を開き、何か言葉を紡ごうとした彼は、だが、ハッとして口を噤むと祭壇の奥にある横の扉へ視線を向ける。


真理亜が釣られて振り返ると、白いローブを身につけた、長髪の男が扉から中へ入ってくるところだった。
その背中にも、大きな純白の翼が咲き誇り、翼の先端には太い銀色の鉤爪らしき突起が光っている。


すかさず跪き一礼する2人の天使に気付き、真理亜も慌てて静かに頭を下げた。



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