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一夜の愛、人との愛
第18章 刻印
白い膨らみを明るい場所で凝視され、真理亜の顔が緊張と羞恥で赤らんでいく。
胸の鼓動が早まっていて、皮膚がカッと火照てる。
まじまじと見られている。そう思う度に、いたたまれない気持ちが身体の奥から泉のように湧き出してくる。

だが、男の指先で触れられたのは、血で濡れている肌だけだった。

「あいつ、思ったより深くやったな」

溜息混じりに呟いた男に、恐る恐る顔を向ければ、男らしい精悍な眉を寄せて不機嫌そうに傷口を見ている。
痛いだろ、と労いながら真理亜の肩を軽く叩くと、男は一度背を向けて落としたコートを拾い上げるとポケットから何かを取り出し口に含んだ。
そのままコートを岩場に引っ掛けると、振り返った唇から咀嚼した紫色の実を取り出し、真理亜の傷口に果実の垂れる指先を近づける。

「っつ!」
「我慢しろ」

低く囁かれ、強く目を閉じ、唇を噛みしめるも、傷の中に汁を塗り込める指の動きが染みてしまう。

「……ッ、……あっ!」

体側に垂らした両手が、知らぬ間に強く拳になっていた。
その手を握られて、背中に獣の大きな手が触れたと思った瞬間だった。
滑りのある生暖かい感触が傷口に走り、思わず瞳を見開けば、男の舌が傷口に這っている。

「や、……やだっ!」
「……待て」

気づいた途端、身体を捩ったが、男の舌が傷の中に果実の汁を押し込む方が早かった。

「んっ……」

ビリビリと傷口付近に走った熱っぽい痛みに、思わず男の顔を自由な右手で掴んだ。
髪に差し入れた指が、男の三角形の耳に触れる。
こんな時なのに、本当に人間じゃない存在を相手にしているのだと、妙に冷静な頭で考えた。

直後、男は顔を離し、両手から力を抜いた。
身体を拘束する男の力が緩み、真理亜も安堵して息を吐くと、僅かに目を伏せる。
傷口の痛みは、まだ続いているけれど、耐え切れない程じゃない。

(良かった……)

強張っていた肩が緩んだ。

と。

「おい、そろそろ離せ」

言われて、真理亜は男の視線を確認する。

「あ……」

男の髪に右手を入れて、その猫科の耳辺りを掴んだままだった。

「ご、ごめんなさい…」

はっとして両手を離すと、そのまま数歩下がって、胸元を押さえる。
そんな真理亜の様子に、男は苦笑すると、一度鼻を鳴らして大気の匂いを嗅いだ。
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