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一夜の愛、人との愛
第10章 透明な選択


これほどまでに強く決意したのは初めてかもしれなかった。



自分は、"浄化"されて居なくなる身。



失うものなど、何も無い。



(私は、この人を救う)



胸にある想いの訳は、説明がつかなかった。



罪人の訴えに心を動かされたのか、半人前の彼の身を案じているのか、心もとない自分にスカーフを返してくれた彼の優しさを思い出したのか、そのどれもが当てはまるようで、そのどれもが違う気がした。



(でも、訳なんて、いらない)



頭を下げたまま、床を強く見つめる真理亜の決意に、イエナリアが細く開いた瞳をザレムへと移した。



彼はまだ、真理亜の姿を見つめている。その表情は、何故か口を開けば怒鳴りつけそうな形相だった。



「ザレム」



はっとして、彼が真理亜から視線を逸らす。



金色の瞳が己へ向いたのを確認すると、イエナリアは改めて囚われた黒い天使の様子を静かに見据えた。



羽の傷や身体の傷は幾らか癒やされているが、その羽の艶は失われかけ、ローブから覗く左の肩口には、未だに塞がりきらない槍の刺創(しそう)が見える。



「何か、言うことはあるか」



イエナリアの問いに、ザレムは一瞬唇を動かしかけた。だが、何も言えず、目を反らすと、自分の胡座を見つめて眉を寄せる。



2人の反応をじっと見つめてから、彼は僅かに目を伏せて口を開く。



「分かりました。マリア、貴方は後1日、ここにいなさい。明日、選択肢を与えます」
「ザレム、貴方は後1日、地下で過ごしなさい。明日、試練を与えます」
「クレイル、コーラル、二人共、ザレムを連れて戻りなさい」



託宣を告げるように、イエナリアが静かに命じる声が、聖堂の中に響き渡った。
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