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一夜の愛、人との愛
第10章 透明な選択

右手を上げかけたイエナリアが、その手を緩く握り、体側へ戻す。
「どういう意味ですか、人間の女よ」
「言葉の通りです。……私は、確かに、この人に抱かれたかもしれません。それでも、私は、この人を訴えない。だから、ザレムを消滅させないで頂くことは、出来ませんか?」
今度こそ、ザレムは顔を上げた。
自分達の頂点に立つ男に懇願する真理亜の横顔を見上げた。
彼女は何の恐れもなく、ただ、まっすぐ、イエナリアだけを見ている。
―――――。
その場の天使達が、皆、真理亜を見ていた。
シャツにスカーフ、スカートに裸足の、お世辞にも整った格好とは言えない彼女の、凛とした姿に、皆が一瞬、言葉を失っていた。
そんな中、彼女は、視線を浴びながら、静かに頭を下げる。
「お願いします。私から、お願いしたいんです」
彼女の一礼を受けて、イエナリアが静かに1つ息を吐いた。
「……強姦、レイプ、陵辱。セックスを無理強いする行為は人間の世界でも重大な犯罪ではありませんか? 被害者の女性の身体を弄び、精神を傷つける醜穢(しゅうわい)な罪である。違うでしょうか?」
咎めるような天使の声に、真理亜は無言のまま顔を上げずにいる。
「それとも貴方は、全てを許し、甘んじて受け止めることが、優しさ或いは正義であるとでも、お考えですか?」
それでも、真理亜は動かなかった。

