この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
一夜の愛、人との愛
第12章 穢れた天使は夢を見る
空全体が黒みがかった群青色になっている。
黒い夜が近い。
* * *
―――大切にしてね、ザレム
―――貴方が貴方自身を大事にするように
―――人間を、守ってあげて
「……」
閉じていた瞳を薄っすらと開くと、胡座を組んだ自分の足首が見えた。
薄暗い地下牢の中、時折聞こえるのは、入り口近くの松明が爆ぜる微かな音だけだ。
ザレムは、ゆっくり顔を上げると、天井を見上げて目を凝らす。
さっきまで見ていた奇妙な風景は、一体、何なんだろう。
幼い頃から、時折、眠っている時に感じられるヴィジョンだ。
人間で言うところの「夢」というものにも思えるが、見たことが無いから、果たして、これが夢なのかさえ分からない。
ただ、毎回、必ず女の声が聞こえるのは確かだ。
一面の青い背景の中に、真っ白い柔らかな人型のような光が見えると、どこからか女の声が、自分に何かを伝えてくる。
けれど、その言葉の意味を理解する前に、目が覚める。
だから何を言われていたのかは思い出せず、常に印象はおぼろげだ。