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一夜の愛、人との愛
第16章 気配

険しい表情を崩さないまま立ち上がると、ザレムは目を細めて、黒い靄に包まれた木々の合間に目を凝らした。
森に入って少ししてから、何かに見張られているような奇妙な気配がずっと続いている。
今も、その感覚は、真理亜と自分を取り囲んで、静かに点在していた。
(何なんだ…)
何度目かの苛立ちに、ザレムが鼻の頭に皺を寄せた。
鋭い目つきで周囲に垂れ込める闇の中を覗こうとするが、夜目が利かない。
夜行性動物のように空間を把握できるはずの金色の目が、この闇の中では使い物にならない。
(だが…、この気配は、確実に近づいてきている)
眠る真理亜を見下ろしてから、ザレムは彼女を中心に、円を描くように、木々の間を歩き始めた。
湿った大地を踏みしめながら、遠くに行き過ぎないように気をつけつつ、辺りの景色を何とか伺おうとした。
それでも、今回も収穫は無い。
その気配は、森の奥に進むに連れて、徐々に自分達に近寄ってきている。
にも関わらず、正体は検討がつかず、手がかりさえ掴めないことに、ザレムは苛立ち、微かに動揺もしていた。
自分がエデンで学び、吸収していた知識では事足りない。
知識よりも、瞬間の経験が、認識の甘さを軽々と上書きしてくる。
(裁きの森に、こんな闇があるなんて、聞いてなかったしな)
焦りが混じる自分の意識をなだめれば、気を取り直し、ザレムは小さく、くん…と鼻を鳴らした。
淀む森の空気の中、微かに感じる清涼な流れを辿り、その方角を確認すると、数歩前に進む。
間違いない。こちらの方向が、より清らかな匂いが強い。
澄んだ空気は、もっと奥から流れているようだ。
(闇が晴れたら、スピードを上げるか)
振り返り、真理亜の元へ戻ろうとしたザレムの顔に、ちらりと疲れの色が滲んだ。
人間の血が混じっている半人前だからか、それとも汚れなき地から訪れた天使という肉体のせいか、頭が重く、くらりと揺れる。
厄介な感覚を逃そうと、大きく息を吐き、ザレムは真理亜の傍へ戻った。
その足が、驚きに止まった。
森に入って少ししてから、何かに見張られているような奇妙な気配がずっと続いている。
今も、その感覚は、真理亜と自分を取り囲んで、静かに点在していた。
(何なんだ…)
何度目かの苛立ちに、ザレムが鼻の頭に皺を寄せた。
鋭い目つきで周囲に垂れ込める闇の中を覗こうとするが、夜目が利かない。
夜行性動物のように空間を把握できるはずの金色の目が、この闇の中では使い物にならない。
(だが…、この気配は、確実に近づいてきている)
眠る真理亜を見下ろしてから、ザレムは彼女を中心に、円を描くように、木々の間を歩き始めた。
湿った大地を踏みしめながら、遠くに行き過ぎないように気をつけつつ、辺りの景色を何とか伺おうとした。
それでも、今回も収穫は無い。
その気配は、森の奥に進むに連れて、徐々に自分達に近寄ってきている。
にも関わらず、正体は検討がつかず、手がかりさえ掴めないことに、ザレムは苛立ち、微かに動揺もしていた。
自分がエデンで学び、吸収していた知識では事足りない。
知識よりも、瞬間の経験が、認識の甘さを軽々と上書きしてくる。
(裁きの森に、こんな闇があるなんて、聞いてなかったしな)
焦りが混じる自分の意識をなだめれば、気を取り直し、ザレムは小さく、くん…と鼻を鳴らした。
淀む森の空気の中、微かに感じる清涼な流れを辿り、その方角を確認すると、数歩前に進む。
間違いない。こちらの方向が、より清らかな匂いが強い。
澄んだ空気は、もっと奥から流れているようだ。
(闇が晴れたら、スピードを上げるか)
振り返り、真理亜の元へ戻ろうとしたザレムの顔に、ちらりと疲れの色が滲んだ。
人間の血が混じっている半人前だからか、それとも汚れなき地から訪れた天使という肉体のせいか、頭が重く、くらりと揺れる。
厄介な感覚を逃そうと、大きく息を吐き、ザレムは真理亜の傍へ戻った。
その足が、驚きに止まった。

