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一夜の愛、人との愛
第16章 気配
そこにいたのは、白い豹だった。
いや、白い豹と人間の体を掛けあわせたような、不思議な生き物だ。
黒髪の合間から見える耳は白い毛におおわれて三角形に尖り、金色の虹彩に囲まれた黒く小さな瞳孔は、寸分のずれも無く、ザレムの姿を正確に目視している。
じっと凝視してくる様子は、獲物に飛びかかる瞬間を図っている肉食獣のような、張り詰めた静けさを思い起こさせた。

無意識に息を詰めたザレムは、真理亜の隣に腰を下ろしている、その男を睨み返す。

(獣人―――)

"じゅうじん"と呼ばれる、獣じみた生き物のことは、ザレムも知っていた。

裁きの森には、人間の肉体を持ちながら、体表面の何割かを獣の皮膚で覆った種族が存在する。
例えば、ライオンの皮膚を纏う”レオネイル”、キツネの皮膚を纏う"フォクサー"。
そして今、ザレムの目の前にいるような、雪豹の白い皮膚と人間の骨格を併せ持つ"レオパドル"も、"獣人"の一種だ。

「招かれざる客、って感じか?」

自分を見据えて固まったザレムに、男はニヤリと笑みを浮かべると低く唸るように尋ねる。
ぐったりと深い眠りに落ちる真理亜の首筋を撫でる男の指先には、闇に紛れた鋭い鉤爪が煌めいて見えた。
不審な動きをすれば、喉笛を押さえ込み、その白い肌を引き裂くことも厭わないのだろう。

異変を知らず寝息を立てる真理亜に視線を向けてから、ザレムは小さく息を吐く。

「獣が何の用だ」
「それは、こっちの言い分だ。人間の女と黒い天使が、この森に何しに来てる」

レオパドルの太い尻尾が、真理亜の体のラインを確かめるように撫でる。
闇の中、その白く長い尾の動きは、淡く発光しているかのようにザレムにははっきりと見えた。
まるで挑発するように、真理亜の体を尾の先で舐めまわしながら、雪豹は愉しげに笑う。

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