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一夜の愛、人との愛
第4章 夜9時半のグリーティング
夜9時半。

足が棒のようだ。
鼓膜を叩くヒールの音が、己の足音かさえ怪しい。
鞄を持っているはずなのに、右手に錘(おもり)を括りつけられているような気がする。

大通りを曲がり、仄暗い公園の中へ行き先を変更した。
今日は近道をしてでも早く帰りたい。
こんな時間からベッドが恋しいと思ったのは、久しぶりだった。

真理亜は駅から15分程歩く東京郊外の賃貸マンションに住んでいる。
間取りは1K。
家賃の安さと、清潔感を感じる白いタイル張りの外観、最上階の角部屋で、狭くても日差しがたっぷり入ってくるところが気に入っている。

就職してから住み続けて、もう5年目だ。
流石に、引っ越し当初の「自分の城」という喜びは薄れているが、その分「安らげる居場所」という感覚は強い。


公園の石畳を足早に抜けていこうとした真理亜が、ふと瞬く。

疲労でぼんやりしていた表情に、ふっと意志の色が浮かんだ。

(気のせい・・・?)



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