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一夜の愛、人との愛
第4章 夜9時半のグリーティング
カラカラと音を立てて、ベランダへの窓ガラスを開ける。
白スーツの男は、真理亜に視線を向けないまま、月光の差し込む室内を冴えた視線で見渡した。
その視線は、当然のように黒い男で止まる。


「ここにいたか、ザレム」


冷たく無機質な声が、静かな部屋に響いた。
呼ばれた男は盛大な溜息をついて頭を軽く掻く。


「あー、なんで分かったんだよ」


苛立ちを隠さないまま来訪者に尋ねると、男はベッドの端に音を立てて腰掛け、月光に照らされる白い姿を睨み上げた。
その視界に、白い男が片手を上げる。
白い手袋をつけた右手に、缶チューハイの空き缶が握られている。


(あ・・・)


壁に寄りかかって縮こまっていた真理亜が、その缶に視線を奪われる。
見覚えがある。
昨日の夜、眠れなくてベランダで飲んだものと、同じ缶チューハイだ。


(あれ・・・)


そういえば、昨日、自分は、ベランダで酒を飲んでいたはずだった。
それから、自分がベッドに入った記憶が無い。
気付いたら、時計が8時を指していた。


(わたし・・・)


記憶を探る真理亜の耳には、2人の声が遠くに聞こえた。


「あーあー、ミスった」
「お前の手が触れた形跡があった。こんなところに隠れた以上、罪は更に重くなるぞ」
「はっ。説教かよ。てめーの、いいこちゃん理論なんて聞き飽きてる」
「なんでもいい。さっさと、この人間の―――」


そこで音が途切れた。
ぼんやりと昨晩を思い起こしていた真理亜は、ふと、音の消えた方を見て、白い男と目が合った。


(え・・・)


月明かりに照らされた、白い美しい顔が、自分を凝視している。
金色の柔らかい髪、整った顔立ち、瞳の色は青にも灰色にも見えて、異国の麗人のような、端正な面立ちが、その表情を、やや険しくしたまま、何か伺うように真理亜を見つめていた。


「え、なに?」


状況に全くついていけない真理亜を、それでも数秒見つめてから、白い男は闇に振り返る。


「お前、まさか・・・」


暗がりから答えが無いのを確認すると、悔しげに静かに目を閉じてから、男は真理亜に向き直った。


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