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一夜の愛、人との愛
第4章 夜9時半のグリーティング
「綺麗・・・」

目の前に現れた銀色がかった白い翼に、真理亜が思わず呟いた。
異形のもののはずなのに、ともすれば触れたくなるほど神々しい、その翼は、月光に照らされて淡く光って見える。

「あの」

真理亜の部屋に戻ろうとした男が、困ったように足を止めた。
その表情が幾らか艶やかに見える。

「余り、強く見ないで頂けますか」

何かを堪えるような男の声に、真理亜は不躾だったかと急いで視線を逸らした。
目の前の来訪者を、何と表現すれば良いか分からないが、凝視するのは失礼に値するだろう。
それにしても。

(さっき、何て、言われた・・・?)

世界に連れていく、とか・・・。
それは、どういう意味だろう。
まさか、死後の世界に行くのだろうか。

思わず顔をあげた彼女に、男は、その胸の内を読んでいたかのように微笑む。

「安心してください。死ぬことはありません」

白い手袋が窓ガラスにかかり、からからと音をたててスライドされた。
居間の暗がりに、あの男が座っている気配がある。

「私達は、貴方を殺すことは出来ない」

告げながら、白い指先が再び暗がりに向かって何か動いた。

「ってーな。んなことしなくても、行くっつの」

ベッドから立ち上がった男の背中に、再び漆黒の翼が広がる。

操られるように白い男の前に歩み寄った男の顔を、真理亜は初めてしっかりと捉えた。

月明かりを浴びる男の顔は、凛として力強く、意志の強そうな眉と鋭い瞳、赤く濡れたような唇が、涼し気な白い男とは対照的だった。

その艶やかな視線が、真理亜と絡み合う。

(・・・!)

目が合った瞬間、胸を締め付けられるような感覚に襲われ、真理亜が息を飲んだ。

「っははははははは!」

豪快に笑い出した男と真理亜の間に、盾のように体を割りこませ、白い男が空中に何かを書き記した。

「っは、っぐ」

笑っていた男が、苦しげに胸を抑えると、射殺すような視線を、その手袋に向ける。

それでも、白い男は何事もなかったかのように、手袋をハメた手を真理亜に差し出した。

「名前を、お聞きしても、良いですか?」

柔らかな口調だ。

真理亜は戸惑いながらも、差し出された右手に、己の左手を乗せ、名乗った。



「真理亜」






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