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一夜の愛、人との愛
第7章 魂の色
  *  *  *


やるせない表情を隠しもせずに雫の垂れる両手を柔らかい布で拭くと、コーラルは床に落ちていた手袋を拾い、両手にはめた。

その手でオレンジ色の下着を拾うと、まるでガラス細工を扱っているかのように、寝台の上に、そっと置く。



自分の右手が、火傷でもしたかのように熱くジンジンと疼く。

綺麗に水で洗い流したはずが、あの感触が離れない。

人間の体に触れることで、こんなに我を忘れるとは思っていなかった。




右手を静かに握り、床に落ちたままの眼鏡へ視線を向けた。

「・・・」

無言のまま銀フレームのそれを拾い上げて装着すると、天使はひとつ深呼吸をした。




「・・・だめだ」




ここは、彼女の匂いに満ちている。




頭を冷やすために、彼は部屋を出て階下へと向かった。




  *  *  *




白い建物の1階へ降りると、コーラルは奥の泉へ向かった。

建物全体が淡く発光しているため、泉の水も時折輝いて見える。

水の流れを見つめていると、頭上の楕円形の窓から誰かが飛んでおりてきた。

若い天使、チェイスだ。


「あれ? コーラルさん」


チェイスは音も立てずにコーラルの隣に降りると、不思議そうに顔を覗き込む。


「何してんの? 人間の女、放っといていいの?」

「あぁ。・・・・・・ん? お前、なんで、それを」


心ここにあらずで返答をしてから、コーラルが、ふと赤毛の少年に視線を合わせた。


「ちょっと前に会ったんだ。空が黄色の時に」


言われて窓を改めて確認する。

縦長の丸い窓から見える空の色は、濃い群青だ。

時間を確認してから、コーラルは漸く冴えてきた視線をチェイスに向けた。



「お前、彼女に何か話したか?」



兄にも似た鋭い視線の色に、チェイスが「やべ」と赤い舌を出した。





  *  *  *





暗がりの中。

穢れた天使は答えを告げるつもりは無いようだった。

暫く真理亜の顔を見つめてから、天使の視線は、徐ろに入口の松明へ逸れた。





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