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一夜の愛、人との愛
第8章 銀の鎖
「クレイル! お前、いつまで覗き見してるつもりだ!」

急に声を張り上げた男に、真理亜が肩をビクッと震わせ、背後を振り返った。

通路の松明が揺れて、岩肌に黒い影が揺れると、階段とは反対の方向から、銀髪の天使が現れる。




はっとして真理亜がザレムの足の上から体をどかし、シーツの置かれた洞穴の端側へ移動した。

(・・・あれ?)

その時、不意に、冷えていた空気が穏やかに温かくなった気がした。




と、洞穴の入り口にクレイルが松明を持って歩み寄る。

その目は真理亜ではなく、灯りに照らされたザレムを冷ややかに見つめている。

「気付いていたのか」

「当たり前だろ。見張りが居ない状況を、お前が放置してるわけがねーしな。どうせ、この女を使って必要な情報を手に入れようとしてたってオチだろ」

「・・・」

クレイルが答えないまま、真理亜に視線を向けた。

「それだけでも無い。文献に書かれていたことが正しいことを、この目で見てみたかった」

突然、自分を見つめながら口を開いた銀髪の天使に、真理亜が微かな怯えを滲ませながら、思わずザレムを見た。

真理亜の視線に気付いているのか、黒い天使が苦笑する。

「相変わらず、悪趣味なヤローだな」

「そうか? 私達に見える鎖が、人間には見えない。私達が触れることも出来ない地下牢の扉を、人間は自由に行き来する。・・・・・・確かめたくならないか?」

「人体実験、ってやつかよ」

クレイルの冷静な問いかけに、ザレムは鼻の頭に皺を寄せながら吐き捨てた。

「まぁ、いい。少なくとも、てめーが信頼に値するのは確かだ」

深い溜息をついて、ザレムが言うと、漸く真理亜に視線を向ける。




「女。上に戻る前に、ちょっと来い」

「えっ?」

「いいから来い」




クレイルの持つ松明で、今は、もうザレムの表情がはっきり見えた。

口の端に血がこびりついている。

露わになった上半身にも、何かで突かれた傷痕があり、血は止まっているものの肌が所々赤黒く汚れていた。

真理亜が、一度クレイルへ顔を向けた。

数歩離れた入口側の空間で、彼は無言のまま自分たちを見ている。

どこか切なげにも見える、その姿を見つめてから、真理亜は再びザレムに視線を戻した。



「・・・」



立ち上がった彼女は、自由を許されない天使の前に歩み寄った。



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