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一夜の愛、人との愛
第8章 銀の鎖

なんとなくシーツを持ったままザレムの前に進み出た真理亜に、男は顎で座るように指示する。
胡座を掻く相手の前で、ゆっくり正座になれば、ザレムが口の端を片側だけ持ち上げた。
「俺の服の中に、手を突っ込め」
「・・・は?」
「さっさとしろ」
「な、何言って・・・」
意外な言葉に困惑した真理亜に、ザレムが面倒そうに大げさな溜息をついてみせる。
「右手を俺の服に突っ込めっての」
「・・・・わ、かったわよ」
聞き分けのない子供のような扱いに感じ、真理亜が小さく頬を膨らませる。
右手を胸の前で落ち着かなく動かしてから、一瞬、上目遣いで男の顔を見ると、あまり見ないようにしてローブの中に指先を滑らせた。
(あ・・・)
手の甲が、乾きかけた血でベタつく。
眉を寄せて唇を噛んでから、彼女は顔を上げた。
ザレムは意外にも凪いだ表情で自分を見ている。
「もう少し右だ。・・・あぁ、反対」
一瞬絡み合った視線を離し、ザレムは彼女の手の動きを誘導した。
指先が、何かに触れた。
ローブの感触よりも、もっと滑らかで頼りない何か。
「それだ、引っ張ってみろ」
「・・・?」
ザレムの言葉に、真理亜が不思議そうに彼の顔を見てから、掴んだものを引っ張る。
「あ」
出てきたのは、彼女の青いスカーフだった。
「相変わらずの手癖の悪さだな」
「お前の悪趣味と同じでな。治らねーんだよ」
天使の会話を聞きながらも、真理亜は手の中のスカーフを見つめて顔を上げられずにいた。
不思議な感覚だ。
懐かしくもあり、ほっとしたようでもある。
決して大事なスカーフでも無かったし、セールで買った安物だった気がするのに、今ここに、これがあるだけで、妙な安心感を感じられた。
「少し、汚れたな。悪い」
スカーフの端についてしまった血に気付き、ザレムが詫びた。
その言葉に、真理亜が顔を上げる。
見えた彼女の表情に、男が小さく目を見張った。
「ありがとう」
蕾が綻ぶように、柔らかく微笑む真理亜に、ザレムが一瞬、呼吸を止めた。
胡座を掻く相手の前で、ゆっくり正座になれば、ザレムが口の端を片側だけ持ち上げた。
「俺の服の中に、手を突っ込め」
「・・・は?」
「さっさとしろ」
「な、何言って・・・」
意外な言葉に困惑した真理亜に、ザレムが面倒そうに大げさな溜息をついてみせる。
「右手を俺の服に突っ込めっての」
「・・・・わ、かったわよ」
聞き分けのない子供のような扱いに感じ、真理亜が小さく頬を膨らませる。
右手を胸の前で落ち着かなく動かしてから、一瞬、上目遣いで男の顔を見ると、あまり見ないようにしてローブの中に指先を滑らせた。
(あ・・・)
手の甲が、乾きかけた血でベタつく。
眉を寄せて唇を噛んでから、彼女は顔を上げた。
ザレムは意外にも凪いだ表情で自分を見ている。
「もう少し右だ。・・・あぁ、反対」
一瞬絡み合った視線を離し、ザレムは彼女の手の動きを誘導した。
指先が、何かに触れた。
ローブの感触よりも、もっと滑らかで頼りない何か。
「それだ、引っ張ってみろ」
「・・・?」
ザレムの言葉に、真理亜が不思議そうに彼の顔を見てから、掴んだものを引っ張る。
「あ」
出てきたのは、彼女の青いスカーフだった。
「相変わらずの手癖の悪さだな」
「お前の悪趣味と同じでな。治らねーんだよ」
天使の会話を聞きながらも、真理亜は手の中のスカーフを見つめて顔を上げられずにいた。
不思議な感覚だ。
懐かしくもあり、ほっとしたようでもある。
決して大事なスカーフでも無かったし、セールで買った安物だった気がするのに、今ここに、これがあるだけで、妙な安心感を感じられた。
「少し、汚れたな。悪い」
スカーフの端についてしまった血に気付き、ザレムが詫びた。
その言葉に、真理亜が顔を上げる。
見えた彼女の表情に、男が小さく目を見張った。
「ありがとう」
蕾が綻ぶように、柔らかく微笑む真理亜に、ザレムが一瞬、呼吸を止めた。

