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一夜の愛、人との愛
第9章 罪の尺度
頬に触れた優しい感覚に、ぼんやりと目を開く。

「ひゃっ!」

寝ぼけ眼で、目の前の白い塊を見つめてから、真理亜が思わず声を上げた。

声に驚いて白い塊が、弾かれたように寝台から飛び降りると、テラスへ続く窓へ走って行く。

「お目覚めですか?」

背中に翼を携えて、クレイルがテラスから戻ってくれば、その白い動物は、彼の足元にまとわりついた。

「あ、その子」

身体を起こし、やっと自分の頬に触れた塊の正体に気づいた彼女に、男が微笑む。

「コーラルの部屋から抜けだしてきたようです。貴方を気に入ったらしい」

天使に抱き上げられて、その獣が「ミー」と可愛らしく鳴き声を上げた。

「ルシオ、戻っていなさい」

テラスの外へ離された白い生き物は、一度戻って、顔だけ窓から覗かせると、赤い瞳で真理亜を見つめてから、ふっと身を翻して、その場を去っていった。

その様子に思わず笑みを浮かべた彼女に、男が向き直る。

「眠れましたか?」

問われて、昨夜のことを一気に思い出し、真理亜の頬がみるみる赤くなった。

「一応」

視線を彼から逸らしたまま頷く。

天使は「良かった」と呟き、廊下とは別の方向へ続いている扉を開けると、何か持って戻ってきた。

「どうぞ」

差し出されたのは、白いマグカップ。中に、湯気があがる透明の液体が入っている。

不安げにチラリと顔をあげると、カップを受け取る彼女に、天使が微笑む。

「紅茶です」

「え? 紅茶??」

「はい」

言われて、そっと口をつけると、確かにアールグレーに似た香りがする。

(不思議・・・)

目の前の男に翼が無かったら、海外の豪華な屋敷に旅行に来ただけのようにも感じるかもしれない。

何となく眺めていた男の背中が遠ざかり、一度、廊下へ姿を消す。

無意識に安堵の息を漏らして、真理亜は改めて昨夜のことを思い出した。

「・・・」

あまりのことに、断片的にしか思い出せないが、記憶に浮かび上がる感覚や声が、どれも艶かしい。

耳まで赤くなって、カップを持ったまま俯くと、ふと、自分の服が真っ白い絹のような上下になっていることに気づいた。



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