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雨 ─ 超短編集 ─
第1章 雨宿り

傘を忘れた日に限って、夕立にあうのはお約束で。
今月に入って、もう三度目の夕立の雨脚を眺めながら、雪は帰路の途中で雨宿りしていた。
ずぶ濡れになった髪の先から、雫がぽとっぽとっと落ちる。
気温はそう低くはないものの、雨に打たれれば流石に肌寒く、腕をさすりながら雨が止むのを待っていた。
雨宿りしているビルの中から出てくる人達が、傘を広げて帰って行くのを羨ましく思いながら、もう一度この雨の中を濡れながら歩く勇気はなく…一向に明るくならない空を見ながら溜め息をついた。
ぱんっ
また近くで傘が開く音が聞こえる。
傘を差した背の高い男性が、横を通り過ぎていく。
追い掛けるようにして、ハイヒールの高い靴音がしたかと思うと、先を行く男性を呼び止めた。
その声に男性が振り返り、一瞬、雪に目を留めた後、二、三言葉を交わし、こちらに帰ってくる。
忘れ物でもしたのか、とぼんやり見ていると、目の前で立ち止まった。
「こんなとこで、何してるんですか?」
「え?」
「片桐雪さん、でしょ?俺のこと覚えてませんか?」
「えーと…、ごめんなさい。どこでお会いしたのかすら記憶に……」
「プリン食べさせてあげたのに?」
「へ?」
「俺、雪さんに唇まで奪われたのに。」
「は?」
「ひどいなぁ。
…これで、思い出してくれる?」
彼の顔が近付いてくる。
視界がぼやけ、唇を割り、侵入してきた彼の舌から伝わる熱が、冷えきった身体に染み込んでいった。
今月に入って、もう三度目の夕立の雨脚を眺めながら、雪は帰路の途中で雨宿りしていた。
ずぶ濡れになった髪の先から、雫がぽとっぽとっと落ちる。
気温はそう低くはないものの、雨に打たれれば流石に肌寒く、腕をさすりながら雨が止むのを待っていた。
雨宿りしているビルの中から出てくる人達が、傘を広げて帰って行くのを羨ましく思いながら、もう一度この雨の中を濡れながら歩く勇気はなく…一向に明るくならない空を見ながら溜め息をついた。
ぱんっ
また近くで傘が開く音が聞こえる。
傘を差した背の高い男性が、横を通り過ぎていく。
追い掛けるようにして、ハイヒールの高い靴音がしたかと思うと、先を行く男性を呼び止めた。
その声に男性が振り返り、一瞬、雪に目を留めた後、二、三言葉を交わし、こちらに帰ってくる。
忘れ物でもしたのか、とぼんやり見ていると、目の前で立ち止まった。
「こんなとこで、何してるんですか?」
「え?」
「片桐雪さん、でしょ?俺のこと覚えてませんか?」
「えーと…、ごめんなさい。どこでお会いしたのかすら記憶に……」
「プリン食べさせてあげたのに?」
「へ?」
「俺、雪さんに唇まで奪われたのに。」
「は?」
「ひどいなぁ。
…これで、思い出してくれる?」
彼の顔が近付いてくる。
視界がぼやけ、唇を割り、侵入してきた彼の舌から伝わる熱が、冷えきった身体に染み込んでいった。

