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不条理な世界に、今日も私はため息をつく
第2章 コンビニはどこですか
先手を打たれたように、あたしは男になにも言うことが出来ない。
やけに濡れて赤い男の唇が弧の形になっていく様を、ただじっと見つめるばかりで、体を動かすことはおろか、息をすることも出来ない。
だから男がどんな潜在能力を秘めているのか、どんなことを思ってあたしに近づいてくるのかを推し量ることも出来ず、動けない現状にどこか屈辱的な気分になりながら、それでも精一杯の反抗として睨み付けた。
男はあたしの至近距離に立った。
そして意地悪い笑みを顔に浮かべて、あたしの耳にこう囁く。
「欲しいか……俺の水を」
艶やかな低い声に、ぞくりとしながら、あたしは頷いた。
だから、返しやがれ、あたしの水を!
そう言いたいのに、喉の奥がひりひりして言葉が紡げないのは、ただ単純に喉が渇きすぎるためではないと思う。
だからこそ余計に悔しい。
あたしの水を横から掻っ攫った男が、イケメンだからと敗北するなんて。
許せない。
あたしの、女としてのプライドが許せない。
「ほう……。そんな目をするのは、そこまで水が欲しかったのか」
しかし男の表情は、1割の驚愕と9割の愉悦で。
クルックゥなみにあたしの怒りのボルテージを上げていく。
だが声が出ないあたしは、言葉の代わりに視線に託す。
おとといきやがれ、この水泥棒っ!
すると――。
「それとも……それにかこつけて、別のものが欲しかったのか?」
高慢な態度を取りながら、ゆらりと男の目が妖しく揺れた。
ミッドナイトブルーの瞳に混ざり始めたのは、情欲の熱い赤。
「今の俺は砂漠の熱さで頭がやられている。だから特別だ。運がよかったと味わうがいい。俺の水の味を……」
それを認識した時には既に時遅く。
「は!? ……ちょ……んんっ、んんんっ!?」
吐息を漏らすように笑った男に、突然の唇を奪われたのだった。