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白雪姫にくちづけを
第26章 こひつじレッスン*
『あずさ以外は、覚えてない。というより…思い出らしいものはない。』
あずさを見つめている浩巳の目はどこか遠くを見ているようだった。
虚無…そんな、寂しい目。
『別に遊びで付き合った訳じゃないけど…少なくとも、今みたいな気持ちじゃなかったから。あんま喋んなかったし。接し方もよく分からないまま、欲に任せて体を重ねた経験があるだけ。』
(あ…こんな哀しい目をさせたい訳じゃなかった。浩巳に無理に話させてる。)
『あずさとはケンカもするし、よく喋るし、あずさが何考えてるのか知りたいし、ずっと側にいたいと思う。前にも言ったけど、こんな気持ちになったの、あずさだけだから。』
『…分かった。浩巳もういいよ。ごめんなさい。』
(あたしはなんて醜くて、身勝手…。好きだからって、浩巳の過去を暴いていい訳じゃなかったのに!)
あずさが話を割っても、浩巳は続けた。
今度は…懺悔でもするように、俯いて。
彼女から目を逸らした。
『昨夜のこと…その時は夢中であずさを愛しく思ってるんだけど…目が覚めると、途端に自分のしたことが、恥ずかしくなる。』
背けた彼の表情は見えない。けれども、今までに あずさが見たことのないものであることは、明白だった。
『自分でも矛盾してるって分かってるけど。
あずさを誰より大事にしたいくせに、心の奥底では乱したいとも思ってるんだ…おれは、卑怯だろ。』