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白雪姫にくちづけを
第27章 忘却のカケラ
『お部屋にご案内いたします。』
通された部屋は、情緒ある日本座敷。
独特の香りを放つは、床のい草。
格子障子を開ければ、小さな囲い庭。
差し込む日を透かす、美しい欄間。
日常とはかけ離れた、癒しの空間が広がっている。
ひと通り館内の説明を受け、やっと2人きりになると、あずさはバタバタと動きだした。
洗面所や浴室を覗いてみたり。
窓や冷蔵庫を開けてみたり。
嬉々たる表情で部屋のあちこちを見て回る彼女に、浩巳は笑みをこぼす。
『あずさ、何やってんの?』
『ふふ!何だかソワソワしちゃう。旅行って楽しいね!』
そう言って向けられた笑顔が可愛いらしくて、浩巳は彼女をよしよしと撫でた。
『とりあえず、散歩でも行こっか。ここにいても落ち着かないみたいだし?』
『うん。あ、その前に!浴衣、見に行こうよ!』
あずさは、先ほど案内係に教えてもらった言葉を思い出す。
───「売店の隣に、色浴衣のご用意がございます。館内着はそちらの押入れに準備がありますが、良ければ無料ですので、お好きな柄の色浴衣をお試しください。」
この旅館では、色浴衣の無料貸出サービスがある。実は、この旅館を選んだ一つの要因はこれだった。
『ん。じゃ行こうか。』
彼女達は、1階へ向かった。