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白雪姫にくちづけを
第27章 忘却のカケラ
『あずさ。これにしたら?』
見兼ねた浩巳は、候補の一つを指差した。
それは白地の浴衣。赤やピンクで描かれた大ぶり小ぶりの花々が流れるように縦に並んでいる。
『立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花…』
2人の様子を見た店主は、柔らかい声色で話出した。
『女性の美しいさまを花に例えた言葉です。
浴衣に描かれている花、柄にも意味が込められているのをご存知ですか?
ここの芍薬や牡丹は、美しさの象徴。柄の意味は幸福。
こちらの桜は、はじまりや豊かさという意味です。』
浩巳の選んだ浴衣の柄を指さしながら、彼女は続ける。
『それから、白い浴衣は清楚で涼やかな印象を与えます。今は季節が冬で、少し選ばれにくいかも知れませんけど、本来は夜に映える色。昔から人気の色味ですよ。』
店主の話に聞き入ったあずさは、すっかりその気になった。
『じゃあ帯は…』
『白地には濃い色が定番です。花の色と合わせて赤系にすると、まとまりも良い。紅で締めてもいいし、ピンクだと一気に可愛らしくなります。』
(うーん…濃いピンクはハデな気が…)
店主のアドバイスに、あずさは迷わず紅い帯へ手を伸ばした。けれどもその手には、ピンクの帯が差し出される。
『…それからピンクは、男性が女性に身につけて欲しい一番の色でもありますよ。』
彼女にだけ聞こえるよう小さく囁かれた言葉。あずさは赤面しながら、ピンクの帯を掴んだ。
『可愛らしいお嬢さんに、ようお似合いやと思います。帯は簡易帯ですから、外湯めぐりにも、ぜひお召しになってくださいね。送迎車も出ますし、お気兼ねなく。』
笑顔で見送る店主を背に、あずさ達は部屋へ歩き出した。
『おばさんに選んでもらえて良かったじゃん。』
浩巳は既に選んでいた紺の浴衣を手にしている。
『うん、そうだね…(本当、あたしってゲンキンだなぁ//)』
『外湯は後でいいか。とりあえず、このまま散策でもしよう。』
2人は浴衣を部屋に置いて、街へ出かけた。