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白雪姫にくちづけを
第27章 忘却のカケラ
『しないね。』
男に言葉を返したのは、浩巳だった。
『あっ…』
『なんだ、もう戻ってきたの。』
あずさを庇うように立つ浩巳を前にしても、男は悪びれる様子なく、続けた。
『別に取って喰ったりしないよ。可愛らしいから話かけただけ。』
『…行こう。』
男から視線を逸らして、浩巳はあずさの手をとる。
それでも男は懲りずに あずさの後ろ姿に投げかけた。
『せっかくの縁だから。また宿で話そうね、おねーさん!』
『…振り向かなくていい。』
咄嗟に反応しそうだったあずさの背に手を添えて、彼は耳打ちする。そしてそのまま、浩巳は視線を男に戻した。
『…アンタ、分かってないな。』
頭だけで振り返る彼は、ため息まじりに放つ。
『そんな薄い縁じゃ、彼女と話もできない。残念だな。』
『なっ……!』
それだけ言うと、浩巳は興味なさそうに向き直る。
『っ…クソガキが!』
男の言葉を背中で流し、あずさの手を引いて、浩巳は人混みに紛れた。