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白雪姫にくちづけを
第27章 忘却のカケラ
『………。』
無言で歩く彼。
(浩巳、怒ってるのかな…
あんな風に他人に言い返すなんて、浩巳らしくないような…)
心配そうに見上げるあずさの瞳に映るのは、前だけを見据える、彼の横顔。そこからは、彼の心理は読み取れない。
しばらくして人混みを抜けると、彼はようやく彼女に目を向けた。
『大丈夫だった?ごめんね、はぐれたの気づかなかった。』
とても穏やかな彼の口調。
てっきり、仏頂面で文句を言ってくると思っていたあずさは、拍子抜けした。
『ううん、あたしこそゴメン。よそ見してて…』
(あれ?あの男の人のこと、もっと怒ってると思ったのに…)
『変なこと言われたり、されたりしなかった?』
『うん。すぐ、浩巳来てくれたから。お茶に誘われただけ。』
『…そう。ああいう変な奴はいくらでもいるよ。あんなの、相手にしなくていい。』
『う、うん…』
『宿でも話しかけてくるかも知れないから、動く時は一緒にいような。』
『うん//』
(何だか堂々としてて…今日の浩巳、かっこいぃ//)
『そろそろ帰ろうか。宿の温泉入ったらちょうど良い時間だよ。夕飯、楽しみだね。』
彼はあずさをまっすぐ見つめて微笑む。
繋いだ手。それは彼女にはとても頼もしく感じられた。
(いつから、浩巳はこんな男の人っぽくなったんだろう…昔は、あんなに泣き虫だったのにな。)
──=「ぼく、つよいおとなになる! 」=──
(…え?今の、何……?)
『あずさ、どうかした?』
ふと歩みを止めた彼女に、彼は尋ねる。
『あ…ううん。何でも。今日、寒いね!』
『あぁ。…じゃ、走る?負けた方はジュースおごりな!よーいドンッ!』
『え、えぇ?!ちょ!ズルイ!待って──…!』
乾いた風吹く帰り道。
宿までの坂道を、2人は競って駆け上がった。