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白雪姫にくちづけを
第27章 忘却のカケラ
ハァハァ…ハァ
(ちょっと張り切りすぎたか?)
先着した浩巳は、坂道を駆けてくる あずさをふり返りながら息を整える。
『ほら、だからママ言ったでしょう!』
ふと目線をそらすと、近くにいる親子の姿が目に入った。
小さな男の子は、涙目で母親を見上げている。
『これからはママの言うこと聞こうね?約束。』
母親は息子の視線に合わせてしゃがみ、小指を差しだす。
ちょうど、夕暮れに照らされた2人の影が細い線で繋がった。
『『ゆーびきりげんまん…』』
──=「じゃあ、やくそく!
ゆーびきーりげーんまーん…」=──
(あれ…今の、何だっけ…?)
『浩巳っ!』
彼女が坂を登ってきた。
『ハァハァ…ずるいよ?』
息せく あずさの言葉に、浩巳は笑う。
『はは、ごめんね?足が長くてさ。』
『もぉ〜〜!』
『あはは。おれ、コーラな!』
2人はコートを脱ぎながら宿へと入った。
ふとした瞬間、2人の頭にこだました謎の言葉。どこかで聞いたことのあるような、懐かしいような感覚に一時、彼らをいざなう。
それは紛れもなく、彼らの奥底に眠る、遠い日の記憶の一部…
だが彼らはまだ、その事実には気づけない。
いつか交わされた、小さな約束。
それは再び、彼らの胸に呼び覚まされる日が来るのだろうか───?