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白雪姫にくちづけを
第27章 忘却のカケラ
(ちょっと早く出すぎたかな…何度も風呂入ってるから、もう暑くてのぼせそーだった…)
浩巳は最後の温泉からあがり、夜風に当たって彼女を待っていた。
『ねぇ、これお揃いで買おーよー。』
『はぁ?いらねーよ俺。自分のだけ買ったら?』
ふと、近くの商店で買い物をするカップルの声が耳に入る。
『何で!旅の思い出じゃん!お揃いじゃなきゃ意味ないの!』
男性に抗議する女性は、工芸品のコケシのような置物を二体、手に持っている。
(……男、気の毒。あんなもん、絶対にいらねー。)
その様子に浩巳が同情の念を送っていると、男性は打開案を打ち立てた。
『そんなにお揃いがいいなら、コップにしよーぜ!これこれ!これなら毎日使えるじゃん!』
『えー?まぁいっか。これで毎日、今日の旅行のこと思い出せるね。』
(………ん?)
カップルの一部始終を見ていた浩巳は、昼間のあずさの様子を思い出した。
───「イヤホンジャックだよ、可愛いくない?」
「ふーん?欲しいなら買えば?」
「…浩巳は?」
「おれは別に。」
「そ…そか。あたしも、やっぱいいや。」───
(………なるほど。)
そこで始めて彼女の意図が解り、浩巳は左手首のブレスレットに目をやった。
(そうか、お揃いね。確かにこれにもあるもんな、思い出が。)
浩巳はそのまま、商店に入った。