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白雪姫にくちづけを
第29章 彼女の涙腺
季節は巡り、春───
進級した彼女達は、大学の帰りに映画館へ立ち寄っていた。
『はーっ面白かったねー♪』
ぐすっ…ぐすっ…
いつもの3人は映画を見終わり、スクリーンから出てきたところだ。
元気なあずさとは対照的に、梨々子はさっきから号泣している。
『ぐすっ…あずさ、あんたの心は鉄でできてんの?』
『は、はぁ?!』
『あんな感動の内容で、あずさちゃん、よくそんな平然と出てきたね…』
泣きじゃくる梨々子の隣で、真っ赤な目をした芽衣が続けて言った。
『や、やだな!あたしだって感動して見てたよ!だから面白かったって言ったじゃない!』
同じスクリーンから出たきた大半の人々は、泣いているか、もしくは泣きはらした目をしている。
しかし、あずさは感動こそしたものの、上映終了まで一滴も涙を流さなかった。
『あたし…昔から涙腺強いんだよ。』
2人の疑いの眼差しが、あずさを突き刺す。
『ほっ本当だってば!そりゃ赤ちゃんの頃は泣いてただろーけど、物心ついた頃からは…泣くのには強かった自信あるもん!』
『…じゃあ撤回するわ。』
梨々子がようやく泣き止んで、あずさを見る。
『心が鉄なんじゃなくて、涙腺が鉛で出来てんのね。』
『ちょっ…!』
『鋼なんじゃない?鋼の涙腺術師。』
芽衣が意味不明な野次を飛ばして笑っている。
『あたしだってちゃんと涙はあるわよ?!目にゴミが入ったり、あくびしたり…ちゃんと出るわよ!』
『あー…なんかすっかり冷めちゃった。ウチの感動の涙も枯れたわ。芽衣、ご飯行こ。』
『そうだね。行くよっ鋼の!』