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白雪姫にくちづけを
第29章 彼女の涙腺
*** *** ***
ある日の深夜。
『そう、今帰ったよ。』
『お帰りなさい。今日は風、強かったね。』
『ん。あずさはもう、風呂入ったの?』
電話で話す2人。
最近、お互いの都合で顔を合わせる機会が少ない彼ら。今日も声を聞くのはこれが初めてだった。
夜、バイトから帰った浩巳は、彼女に帰宅を告げる連絡を入れていた。
『うん、髪乾かしてテレビ見てたー。』
『あはは。』
『浩巳も早くあったまっておいでよ。…寝る前に、もう一回電話してね?』
『はは//…うん。』
『じゃあ、またあとで…』
少し名残惜しそうな彼女の声。
浩巳は、話を続けた。
『待って。明日のこと話してもいい?』
『うん?明日…もしかして、来れなくなったとか?』
『違うよ。あずさ、明日はバイトないんでしょ?おれも明日、バイトなくなったんだ。』
『えっそうなの?』
弾む、声。
『ん。だから明日は、久しぶりに一緒に夕飯作ろう。
……どう?少しは元気、出たかな?』
『うん!…え?やだ、別に元気なかった訳じゃ///』
移りゆく彼女の表情が思い起こされて、浩巳は笑顔になる。
くす…
『薄情だなー、おれはすごく待ち遠しいけど?』
『……あ、あたしもそうだよ?////』
『じゃ、そろそろ風呂いくよ。…おやすみ。』
『おや…もう一回、かけてね!ちゃんと起きてるから、おやすみの電話、かけてよ?』
浩巳は柔らかく返事をして、通話が切れた音を耳にしてから、携帯を切った。
*** *** ***
浩巳が寝床についた頃…
あずさは一足先に眠りに落ちていた。
(やっぱりな…)
【おやすみ】
浩巳は、既読のつかないLINEを見て、笑みをこぼす。
彼女の携帯は翌朝のアラームまで、着信音を響かすことはなかったのだった。