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白雪姫にくちづけを
第30章 彼の存在
ぽろっ…
『えっ…?!なんで…』
彼女の片目から零れ落ちた、一筋の涙。
それを皮切りに、あずさの両目からはボロボロと涙が溢れ出す。
『ひっ…浩巳が…死んじゃうかもって…』
彼を失うかもしれない…
その恐怖に耐えていた あずさは、高ぶる感情を抑えられない。
あずさの突然の涙に戸惑いつつも…浩巳は彼女にそっと 手を伸ばす。
頬を伝う熱い涙が、浩巳の指に拭われる。
けれども、次々に零れる涙は すぐに彼女の頬を濡らしてゆく。
その光景に、浩巳は見覚えがあることを思い出した。
キイィィィィン…
──=「ひろみくんに会えなくなるの、寂しいよ」=──
泣いていた、幼い日のあずさ。
その姿がハッキリと浩巳の脳裏に思い起こされる。
(!!)
(そうだ…思いだした…!)
───あの日
引越すからもう会えないと言った彼女。
「なかないでよ、あずちゃん。」
それでも泣き止まなかった彼女。
その涙を止めたのは………
「ぼくと、ケッコンしようよ!」
(そうだ、約束したじゃないか…
おれ、あずさと約束したんだ!!)
あずさの涙。
それは、浩巳の奥底に眠る遠い日の記憶を、完全に呼び覚ました。