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白雪姫にくちづけを
第7章 パン屋“ヨネムラ”
十戦十敗という無惨な試合結果となり、再び、あずさはソファに顔をうずめた。
『納得した?』
『…力が及ばないことは分かった。』
『じゃあ、これから遅くなる時は言えよ。』
浩巳は荷物を持って、立ちあがった。
『…浩巳は、何で優しいの?』
負けた悔しさからか、あずさの口からは、溜まっていた不満がこぼれ始めた。
『え?』
『…浩巳は彼女、いるの?』
『…いないよ。』
『…あたしのこと…どう思ってるの。』
『どうって…』
少しずつ、2人を取りまく空気が不穏なものへと変化する。
『彼女でもないのに…迎えに来るとか、キ、キスするとか…何でなの。』
『………。』
『あのキスは、何だったの…』
(違う、こんなことが言いたいんじゃないのに…)
ずっと、自分を悩ませてきた、あのキス。
触れずにいれば、仲良くできていたのに…
それでも、あずさは止められなかった。
少し間を置いて返ってきた浩巳の言葉は、
さらにあずさを困惑させた。
『怒ってるなら、謝るよ…あれは、悪かった。』
『怒ってるんじゃないよ!』
咄嗟にソファから顔を上げ、浩巳を見たが、彼は背を向けている。
(悪かったって何…浩巳はあのキス、後悔してるのかな…)
『…とにかく、おれが気に入らないなら、別のやつに頼めばいいから。バイト帰りは気をつけて。
あと…ちゃんと、戸締まりしろよ。』
バタン
彼は振り返ることなく、出ていった。
(あ…
また、こんな変な別れ方…
あたし、浩巳に何を求めてたんだろう。)
せっかく浩巳との溝が無くなったかと思えた矢先───
自分でも理解できない感情のせいで、浩巳を傷つけたことを、あずさはひどく後悔した。
(浩巳は悪くない。
あたしを心配してくれてたのに…
意味分かんないこと言って…あたしのバカ。)