この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
白雪姫にくちづけを
第9章 きっかけ
『うそ、ここでバイトしてるの?』
『な、な、びっくりするだろ…』
浩巳は動揺しつつ、急いであずさの手から本を奪ってレジに通した。
『864円』
『う、うん…』
何となくバツの悪そうな顔をしているあずさの様子を見て、改めて彼はその薄い本の題名を見てみる。
『“はじめての基本料理”…』
『//!!…ほら!お釣りくださいっ!』
『はは…あずさ、自炊始めたの?』
お釣りを渡しながら、浩巳は顔をほころばせる。照れているあずさの様子が、可愛らしかった。
『これ、美味そうだよね?』
そう言って浩巳のゆび指した表紙には、肉じゃがが載っている。
『おれ、食べたいな?あずさの肉じゃが。』
『……本当に食べてくれるの?』
受取った本を胸に抱えながら、おずおずとあずさが見上げる。
『もちろん。食いたい。』
『……土曜日、空いてる?』
『もち…(あ、ヤベ、シフト入ったんだった)』
『あたし昼間はバイトだから、夕飯でいい?』
『うん…(祭り、行かないのかな?)』
『じゃぁ…また連絡するね。』
あずさはほんのり頬を染めながら帰った。
(なに、あの可愛さ…//)
ウソのように あっさり土曜の予定が決まり、浩巳のテンションは地味に上がった。
『…笹岡さん、あれは絶対、彼女ですよね…』
一部始終を裏から眺めていた小泉は、しょんぼりと呟いた。
『ねぇあいつ、口笛吹いてるよ。キモ〜ッ!』
静かな店内に響きわたっていた2人の会話は、見事に筒抜けであった。