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白雪姫にくちづけを
第11章 接近
『浩巳、どうして怒ってるの?』
『怒ってないよ。』
『…ケーキありがとう。後で一緒に食べようね?』
『ふん。』
『ふんって…』
部屋にあがったものの、浩巳の機嫌は晴れず、出したお茶にも手をつけず、ムスッとソファに座っている。
『とりあえず今から作るから、テレビでも観て待ってて。』
レシピ本を眺めつつ、あずさは慣れない料理を開始した。
(お米が大体40分で炊けるから、その間に…肉じゃがとお味噌汁とお浸しと…うーん、私の腕で間に合うのかな?)
トン………トトン…トン
危なっかしく響く包丁の音に、浩巳はテレビに集中できるはずもなかった。
おぼつかない様子のあずさの後ろ姿を横目に、嫌な予感が拭えない。
すると案の定、あがる声。
『いたっ!』
(血!!…やだ、舐めても止まらない!!)
ポタポタと流れ滴る鮮血。
指の根元を片手で止血してみても、止まる気配がない。
(どうしよう……!
痛いとゆーより、血が…血が…)
包丁で負傷した経験すら初めてのあずさは、どう処置をしていいか分からない。なす術なく流し台の前で固まっていると…
『あずさ!消毒液ある?!』
駆けつけた彼の声。
『え、引き…そこの引出しの中…』
『ちょっと我慢して!』
『───!』
浩巳は流しの上で、患部に一気に消毒液をかけた。
『──と、止まった…』
『絆創膏は?さっきと同じ引出し?』
浩巳に任せるがままに、あっという間に手当は完了した。
『…ありがとう。ごめんね、ごめんね…』
『いや、もっと早く様子を見に来るんだったよ。おれこそ、ごめん。』
(うぅ…信じられない!
自分から夕飯誘っといて、この失態。まだ一品もできてないのにっ!もともと機嫌悪いし、浩巳、呆れちゃったかな…)
俯いてため息を漏らすあずさの頭を、浩巳はくしゃっと撫でた。
『包丁はおれが担当してやる。あずさは要の味付けだぞ。』
『浩巳…』
『昔から、手先は不器用だったもんな。』
ニッと口端を上げて笑う彼の姿に、あずさも笑顔になった。