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白雪姫にくちづけを
第12章 募る想い
…カチ
教科書をめくる左手が、机の端に当たって小さく鳴る。
音を立てたのは、一粒のガラス玉。
(…今、何してるのかな?)
吸いこまれそうな程、透明で美しいガラス玉に目を奪われ、ふと、会えない彼女の姿を思う。
頬を染めて、うつむく横顔が忘れられない。
───「あずさ、おれ…」───
あの時、無意識に発した言葉。
(何を言おうとしたのか…
いや。果たして言って、よかったのか…
もしあのまま、2人きりでいたら………)
腕に包んだ、彼女の感触。
細いウエスト。
背中の体温。
かすかな、香り。
公園で見つめ合った、あの瞳。
そして重ねた、あの───
ガチャン!
床に落ちたシャーペン。
(だめだ…ここでも集中できない…!)
浩巳を悩ませているのは、もちろん、あずさの存在。
(会いたい…けど、今会っても、余計に集中できないだけだ。)
湧きあがる、彼女への想い。
それは、自分から誰かを好きになったことがない浩巳にとって、初めての感情だった。
(こんな気持ち…
どうしていいか、分からない…)
戸惑いの中、浩巳は読書にも勉強にも身が入らない日々を送っていたのだ。
♪ピンポン♪
【浩巳、久しぶり。勉強はかどってる?
良かったら息抜きに、菓子パンどうかな?
今夜バイト帰りに、差入れするね!】
突如、響き渡った着信音。
刃物のように鋭く光る周囲の視線。
しかし彼にはそれに気づく余裕もない。
あずさからのLINEを見るや、浩巳は一目散に図書室を飛び出していた。